
持病があっても、相談の入口は閉じていません
糖尿病と高血圧で内科に通い、骨粗しょう症の薬も飲んでいる。その状態で人工歯根を考えたとき、「持病があると受けられない」と聞くと、相談の前から断られる気がしてしまうものです。実際には、病名だけで治療の可否が決まるわけではありません。この記事では、血糖・血圧の経過、薬の内容、お口とあごの骨の状態をどう確かめるのかを解説します。入れ歯を含めた相談の進め方もあわせて整理します。
この記事の要点まとめ
- 糖尿病・高血圧の病名だけで人工歯根の可否は決まらず、血糖・血圧の経過や合併症、お口と骨の状態を確認します。
- 骨粗しょう症の薬は自己判断で中止せず、薬名や使用期間を主治医と歯科医師に共有して方針を検討します。
- 状態を整える間は入れ歯の調整やブリッジも選択肢となり、検査結果やお薬手帳を持参して通院計画を相談します。
糖尿病・高血圧で人工歯根を受けられるかどうかは、何で決まる?

糖尿病や高血圧があるというだけで、人工歯根(インプラント)が一律に見送られるわけではありません。判断の材料になるのは、病気の管理状況、合併症、服薬内容、そしてお口とあごの骨の状態です。
血糖が高いと、傷の治りと骨との結合にどう影響する?
血糖が高い状態が続く場合、手術後の感染や傷の治り、人工歯根と骨との結合への影響については医師にご相談ください。研究では、糖尿病がインプラント周囲の炎症に関わる要因の一つとして報告されています1。
HbA1c(1〜2か月ほどの血糖の平均を示す値)や空腹時血糖値の目安は医療機関ごとに幅があり、一律の合格ラインはありません。直近の値だけでなく、ここ数か月の経過を内科主治医と共有して判断します。管理が不十分な場合は、主治医のもとで血糖を整えてから再評価する流れになります。
高血圧もある場合は、血圧の経過と合併症を確認する
診察室で測る血圧は、緊張で普段より高く出ることがあります。そこで、家庭での測定値、頭痛やめまいなどの症状、心疾患や腎疾患の有無、降圧薬の内容をあわせて確認します。糖尿病と高血圧を併せ持つ場合は、心臓や腎臓の合併症が手術の進め方に関わるためです。
血圧が安定しないときは、処置を延期して主治医に相談する場合があります。数値を見て自分で可否を決めず、血圧手帳をそのまま持参してください。
骨粗しょう症の薬は自己判断で止めず、薬の種類と使用歴を伝える
骨粗しょう症の治療にも使われる骨吸収抑制薬は、薬剤関連顎骨壊死(薬に関連してあごの骨が治りにくくなる状態)に関わることが知られています2。こうした薬を使う方のインプラントの脱落やあごの骨の障害については、研究で検討が重ねられています3。
服薬中というだけで断られるわけではありません。薬を自己判断で中止すると骨折予防に影響するため、続けたまま相談してください。飲み薬か注射か、使用期間、処方の目的を、処方医と歯科医師で共有したうえで方針を考えます。
抜歯後の骨の変化や歯周病も、治療順序に関わる
抜歯後はあごの骨がやせることがあり、歯科用CTで骨の量・質、神経や血管の位置を立体的に確かめます。「あごの骨が溶ける」と気になる場合も、まず原因と範囲を確認するところから始まります。
歯周病は人工歯根の周りの炎症に関わる要因として報告されており、先に歯周病治療を行う場合があります1。Mindsなどで公開される診療ガイドラインは参考になりますが、指針だけで個人の可否は決められません。当院では『木を診て森も診る。』の姿勢で、失った歯だけでなく噛み合わせやあごの骨、全身の健康まで見て判断することを大切にしています。
ポイント
可否を決めるのは病名ではなく、管理の経過・薬・あごの骨と歯ぐきの状態を合わせた見極めです。
手術を急がず、代替法・通院準備・噛み合わせを考える
全身の状態を整えている間も、歯を補う方法は選べます。今すぐ進めるか、管理を整えてから再評価するか、外科処置を伴わない方法を選ぶかは、生活の負担も含めて相談して決められます。
延期する間は、入れ歯の調整やブリッジも選べる
| 方法 | 外科処置 | 残る歯への影響 |
|---|---|---|
| 入れ歯の調整・作り直し | なし | 金具をかける歯に負担がかかる場合がある |
| ブリッジ | なし | 両隣の歯を整える処置が必要 |
| 人工歯根 | あり | 隣の歯を整える必要は少ない |
食事中の入れ歯の違和感は、調整で変わる場合もあります。どれが合うかは残る歯の状態や持病の管理状況で異なるため、一つに決めつけず比べてみてください。
検査から人工歯の装着まで、持病があるときの通院を見通す
流れは、問診と画像検査、必要に応じた歯周病治療や主治医への照会、人工歯根の埋入、骨との結合の確認、人工歯の装着です。その後も定期的なメインテナンスが続き、周囲の炎症を防ぐ取り組みとして研究でも重視されています4。
持病の確認が加わる分、期間や通院回数はお一人おひとりの状態で変わります。人工歯根の保険適用や、腫れや痛み、感染、骨との結合に関するリスクは状態によって異なるため、医師にご相談ください。費用は医療機関により異なり、当院の費用についても検査や照会の扱いとあわせて医院へ確認してください。
相談する前に、検査結果と薬の情報をそろえる
次の情報がそろうと、初回の相談で確かめられることが増えます。
- 内科での血糖・HbA1c・血圧の経過(検査結果の写し、血圧手帳)
- お薬手帳(糖尿病・高血圧の薬、インスリンの有無)
- 骨粗しょう症の薬の名前と使用期間
- 心臓・腎臓などの合併症
手術当日の食事や薬は、低血糖を避けるためにも自己判断で変えず、主治医と歯科医師に確認してください。大治西條ファミリー歯科での相談では、勤務の曜日やご家族の通院付き添いなど、通院の希望もあわせてお伝えいただけます。
あごの音や噛み合わせも気になるなら、治療前に伝える
あごが鳴る、クリック音がするという悩みだけで、人工歯根の可否が決まるわけではありません。ただ、痛みや口の開けにくさがあるか、歯列矯正も考えているかで、治療の順序が変わることがあります。
音の治し方を自己判断で決めず、噛み合わせを診たうえで相談してください。次の受診前に、お薬手帳と最近の検査結果を一つの袋にまとめておくと、話し合いを具体的に始めやすくなります。
よくある質問
Q. 糖尿病でもインプラントはできますか?
A. 糖尿病があるというだけで一律に見送られるわけではありません。血糖の管理状況や合併症、お口の状態を内科主治医と共有し、個別に判断します。糖尿病はインプラント周囲の炎症に関わる要因の一つとされるため、治療後のメインテナンスも含めて計画します1。
Q. 歯科治療におけるHbA1cの基準値はいくつですか?
A. 医療機関によって目安に幅があり、一律の基準値はありません。直近の値だけでなく経過や全身の状態を踏まえ、主治医と歯科医師が判断します。ご自身の数値で可否を決めず、検査結果を持参してご相談ください。
Q. 血糖値が高いと手術に影響しますか?
A. 血糖が高い状態が続くと、感染や傷の治りの遅れ、骨との結合に影響が出やすくなります1。管理が不十分な場合は、主治医のもとで血糖を整えてから再評価する流れが一般的です。
Q. インプラントが見送られるのはどんな理由からですか?
A. 血糖や血圧が安定しない、重い合併症がある、骨粗しょう症の薬の使用歴から慎重な検討が必要3、あごの骨が不足している、歯周病が残っている、といった理由が考えられます。いずれも状態が整えば再検討できる場合があり、その間は入れ歯の調整やブリッジも選択肢になります。
参考文献
1. Galarraga-Vinueza ME, Pagni S, Finkelman M, et al. Prevalence, incidence, systemic, behavioral, and patient-related risk factors and indicators for peri-implant diseases: An AO/AAP systematic review and meta-analysis. Journal of Periodontology (2025). PMID: 40489307 / DOI: 10.1002/JPER.24-0154
2. 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死 | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター. https://jglobal.jst.go.jp/detail.php?from=API&JGLOBAL_ID=201802274105224336
3. Mirza R, El Rabbany M, Ali DS, et al. Dental Implant Failure and Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw Related to Dental Implants in Patients Taking Antiresorptive Therapy for Osteoporosis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Endocrine Practice (2025). PMID: 40505730 / DOI: 10.1016/j.eprac.2025.06.003
4. Carra MC, Blanc-Sylvestre N, Courtet A, et al. Primordial and primary prevention of peri-implant diseases: A systematic review and meta-analysis. Journal of Clinical Periodontology (2023). PMID: 36807599 / DOI: 10.1111/jcpe.13790
日本口腔外科学会認定 口腔外科認定医
愛知学院大学歯学部附属病院 口腔外科
口唇口蓋裂特殊外来 非常勤講師
日本口腔ケア学会評議員
国際口腔インプラント学会認定医
日本再生医療学会認定 再生医療認定医
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